だ時には、セエラは何だか狐につままれたような気がしました。名刺にはきれいな文字で、『ミス・アメリア・ミンチン』と書いてありました。
「アメリアさんですって? そんなはずはないわ。」
セエラが名刺を見ながら、そういっているところへ、扉《ドア》をそっと押して、ベッキイが顔を出しました。
「それ、お気に入って? お嬢様。」
「気に入らないはずがあるものですか。ベッキイさん、あなた何から何まで自分で作って下すったのね。」
ベッキイは神経的《ヒステリック》に、しかしうれしそうに、鼻先で笑いました。眼はうれしさのあまり潤んでいました。
「フランネルの古切なんですけどね、お嬢様に何かさし上げたいと思って、幾晩も幾晩もかかってこさえたんですの。お嬢様はきっとそれを、繻子《しゅす》の地へダイヤモンドのピンがささったつもり[#「つもり」に傍点]になって下さると思ったから。わたしだって、そのつもりでこさえていたのよ。それから、その名刺はねえ、お嬢様。それ、私|塵箱《ごみばこ》から拾って来たんだけど、いけなかったかしら? アメリアさんが棄てた名刺なの。わたし、名刺なんて持ってないし、名刺がなくちゃアほんと
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