。ふと行きあったりすると、セエラは傍《わき》を向いてしまいますし、アアミンガアドはアアミンガアドで、妙にかたくなってしまって、言葉をかけることも出来ませんでした。時には、首だけ下げて挨拶《あいさつ》することもありましたが、時とすると、また目礼さえせずに過ぎることもありました。
「あの子が、私と口をききたくないのなら、私はあの子になるべく会わないようにしよう。ミンチン先生は会わせまいとしているんだから、避けるのは造作ないわけだわ。」
 で、自然二人はほとんど顔も会わさないようになりました。アアミンガアドは、ますます勉強が出来なくなりました。彼女はいつも悲しそうで、そのくせそわそわしていました。彼女はいつも窓のそばに蹲まり、黙って外を見ていました。ある時、そこへ通りかかったジェッシイは、立ち止って、怪訝そうに訊ねました。
「アアミンガアドさん、何で泣いてるの?」
「泣いてなんて、いやしないわ。」
「泣いてるわよ。大粒の涙が、そら、鼻柱《はなばしら》をつたって、鼻の先から落ちたじゃアないの。そら、また。」
「そう。私なさけないの――でも、かまって下さらない方がいいのよ。」
 アアミンガアドは丸々とした背を向けて、手巾《ハンケチ》で面《おもて》をかくしました。
 その晩、セエラはいつもよりも遅く、屋根裏へ登って行きました。と、自分の部屋の扉の下から、ちらと光の洩れているのを見付けて、吃驚《びっくり》しました。
「私のほか、誰もあそこへ行くはずはないけど、でも、誰かが蝋燭《ろうそく》をつけたとみえる。」
 誰かが火をともしたのにちがいありません。しかも、その光は、セエラがいつも使う台所用の燭台のではなく、生徒が寝室につける燭台の火に違いないのです。その誰かは、寝衣《ねまき》のまま紅いショオルにくるまって、壊《くず》れた足台の上に坐っていました。
「まア、アアミンガアドさん!」セエラは怯えるほど吃驚しました。「あなた、大変なことになってよ。」
 アアミンガアドはよろよろと立ち上りました。彼女は大きすぎる寝室用のスリッパをひっかけて、すり足にセエラの方へ歩いて来ました。眼も、鼻も、赤く泣き腫らしていました。
「見付かれば、大変なことになるのはわかっているわ。でも、私、叱られたってかまわないわ。ちっともかまわないわ。それよりもセエラさん、お願いだから聞かしてちょうだい。ほんとうにどうなすったの? どうして、私が嫌いになったの?」
 アアミンガアドの声を聞くと、セエラの喉にはまた、いつものかたまりがこみ上げて来ました。アアミンガアドの声は、いつか仲よしになってちょうだいといった時の通り、人なつっこく、真率でした。この数週間の間、よそよそしくするつもりなんか、ちっともなかったのに、というような響でした。
「私、今でも、あなたが大好きなのよ。」と、セエラはいいました。「私ね――もう何もかも、前とは違ってしまったでしょう。だから、あなたも、前とは変っちまったんだろうと思ったの。」
 アアミンガアドは、泣き濡れた眼を見張りました。
「あら、変ったのはあなたの方よ。あなたは、私に物をいいかけても下さらなかったじゃアないの。私、どうしていいか判らなかったの。私がうちへ行って来てから、変ったのはあなたよ。」
 セエラは思い返して、自分が悪かったのだと知りました。
「そうよ、私変ったわ。あなたの考えてるような変り方ではないけど。ミンチン先生は皆さんとお話しちゃアいけないって仰しゃるのよ。皆さんだって、私と話すのはおいやらしいの。だから、私あなたもきっと、おいやなんだろうと思って、なるべくあなたを避けていたのよ。」
「まア、セエラさん。」
 アアミンガアドは、セエラを咎めるように泣きじゃくりました。二人は眼を見合わせて、そして、お互に抱きつきました。セエラはしばらくの間、小さい黒髪の頭を、赤いショオルで被《おお》われたアアミンガアドの肩にじっと乗せていました。アアミンガアドが、身を引こうとすると、セエラはひどく寂しい気がしました。
 それから、二人は床に坐りました。セエラは手で膝をかかえ、アアミンガアドはショオルにからだを包んで、
「私は、もうとてもたまらなかったのよ。セエラさんは、私なしでも暮せるでしょうけど、私は、セエラさんなしにはいられないのよ。私は生きてる気もしなかったの。今夜も、夜具の中で泣いていたら、ふと急に、ここへ登ってきて、あなたにあやまって、もう一度お友達になっていただこうって気になったの。」
「あなたは、私なんかよりよっぽどいい方なのね。私は我が強いから、仲直りしようなんて気にはなかなかなれないのよ。ほら、いつかもいったように、今度のように辛い目にあって見ると、私はいい子じゃアないということが、あばかれてしまったでしょう。こんなことになりはし
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