してきたのはベッキイでした。ベッキイは泣き声を出すまいと耐《こら》えていたので、真紅《まっか》な顔をしていました。
「あのう、御免下さい。私悪いとは思ったのですけれど。でも、私、お人形を見ていたんですの。そこへ、奥様が入っていらしったので、私|吃驚《びっくり》して、この中に隠れてしまったんですの?」
「じゃアお前は、そこで初《はじめ》っから立ち聞きをしていたわけだね。」
「いいえ、奥様。立ち聞きするつもりなんぞありゃアしません。見つからずに逃げ出せるものなら、逃げ出そうと思ったのですけど、とても駄目だと思いましたから、仕方なしに、ここに隠れていたんです。立ち聞きなんてするつもり、ちっともなかったんですけど、でも、聞えたんだから仕方ありません。」
 ベッキイは、おそろしい奥様が目の前にいるということも忘れたかのように、わっと泣き出しました。
「お、お、奥様。わたし叱られると知っても申さずにはいられません。わたし、あのセエラ様がお可哀そうで、お可哀そうで――」
「出て行きなさい。」
「ええ、まいります。でも、ちょっとわたし奥様に伺いたいことがあるんでございますの。セエラ様は、あんなに御不自由なく暮しておいでだったのに、これから、女中なしではどうすることも出来ないでしょう。ですから、もしなんでしたら、わたしにお勝手の御用がすんだ後で、あの方の御用をしてあげさせて下さいませんか。出来るだけ早く片付けますから。」ベッキイは更にすすりあげながら、「奥様、セエラ様は、お可哀そうでございますわね。宮様《プリンセス》とさえいわれてらしったのに。」
 ミンチン先生はベッキイにこういわれて、なぜかよけいに腹を立てました、小使娘の分際で、セエラの肩を持つなんて怪《け》しからん。――するとミンチン先生は、初めてはっきりと、セエラなんかちっとも可愛くなかったのだという事実を悟ったような気がしました。先生はがたがたと床を踏み鳴しながらいいました。
「あの子の用をしてやることなんて、断じて許さないよ。あの子には自分の用はもちろん、ほかの人の用までさせなければならないのだから。」
 ベッキイは前掛で顔を隠しながら、逃げて行きました。
「まるで、何かのお話の中のようだわ。あの辛い世の中に追い出される不幸な宮様《プリンセス》のお話そっくりだわ。」
          *        *        
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