一度セエラがエミリイを探し廻った話をした時、ふいにセエラの顔色が変りました。暗い雲が面《おもて》をよぎり、眼に充《み》ちた輝きを消してしまったように思われました。セエラは激しく息を吸いこんだので、声も妙に悲しく、低くなりました。それから口を閉じ、何かをしようか、しまいか、どっちにしようかと思いまどうように、きりりと脣《くちびる》を引きしぼりました。アアミンガアドは、たいていの子なら声をあげて泣き出すところだが、と思いました。セエラは、しかし、泣きませんでした。
「あなた、どこかお痛いの?」
「ええ。」セエラはちょっと黙って、それからいいました。「でも、体が痛いのじゃアないのよ。」それから何事かをしっかり言おうとして、つい小声になりました。「あなただって、世の中の何よりも、お父様がお好きでしょう。」
 アアミンガアドは微かに口を開けたままでした。彼女は父を愛し得るなどと思ったことは、一度もありませんでした。のみならず、ほんの十分間でも父と二人きり向き合っていることを避けるためには、どんなすてばちな事でもしかねない彼女でした。が、そんなことを口に出すのは、模範学校の生徒らしくないと思いました。で、彼女はひどく当惑して、
「私――私めったにお父様と会うことなんかないのよ。」といいました。「お父様は年中お書斎にいらしって――何か読んでばかりいらっしゃるんですもの。」
「私は世界を十倍したよりかも、お父様の方が好き。だから、私悲しいのよ。お父様は、もう行ってしまいになったんですもの。」
 セエラは頭を静かに膝の上にのせ、しばらくは身動きもしませんでした。アアミンガアドは、セエラが今にも泣き出すかと思いましたが、セエラはやはり泣きませんでした。彼女はやがて顔を上げずにいい出しました。
「私お父様に、悲しくても耐《こら》えるってお約束したの。まだ私もきっと耐え通すつもりよ。誰でも耐えなければならないのね。兵隊さんたちの我慢なんか大変なものだわ。私のお父様は軍人なのよ。戦争でもあると、お父様は喉《のど》のひりつくようなこともあるし、深傷《ふかで》を負うことだってないとはいえないでしょう。でも、お父様は一言だって、苦しいと仰しゃったことはないわ。」
 アアミンガアドは、セエラを見つめるばかりでした。この少女の胸には、セエラを憬《あこが》れる気持が湧き始めていました。
 ふと、セ
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