他役に立ちましてね、店でも、台所でも、乞食をしていたとは思えないほど、手助けをしてくれますの。」
おかみさんは、奥の戸口に歩みよって、声をかけました。すると、すぐ一人の娘が、おかみさんの後《うしろ》から、帳場に出て来ました、小綺麗な服をきちんと来て、もうひもじさなどは忘れたような顔をしていましたが、あの乞食娘にはちがいありませんでした。少女は羞しそうにしていましたが、可愛い顔立をしていました。今はもう人間らしい生活をしているためか、あの野蛮な眼付はすっかりなくなっていました。少女はふと見るとすぐ、セエラがいつかパンをくれた人だと知ったらしく、じっと立ったまま、いつまでも見あきぬようにセエラの顔を見つめておりました。
「ね、こうなのでございますよ。」と、おかみさんは説明しました。「ひもじい時にはいつでもおいで、と私が申したものでございますから、この子はよく店に来るようになりました。来ると、私は何か用をしてもらうようにしたのでございますよ。ところが、この子は何でもいやがらずにしてくれますので、私は何だか、だんだんこの子が好きになってまいりましたの。で、とうとううちに来てもらいましてね。この子は私の手伝いをしてくれるようになりました。お行儀もよいし、恩義も知っていますし、普通の娘とちっとも変りはありません。名前はアンヌと申します。アンヌとばかりで、苗字も何もないのでございますよ。」
セエラとアンヌとは、ちょっとの間、ただ黙って、じっとお互の顔を見合っていました。やがて、セエラはマッフの中から手を出して、帳場の向うのアンヌの方にさし出しました。アンヌはその手を握りました。二人はまたお互に眼を見合せました。
「私、うれしくてよ。」と、セエラはいいました。「私、今しがた、いいことを考えていたの。きっとおかみさんは、あなたにパンを施させて下さるでしょう。あなたもきっと、その役をよろこんでして下さると思うわ。あなただって、ひもじい味はよく知ってらっしゃるのですものね。」
「はい、お嬢さん。」と、少女は答えました。
アンヌは、それぎり何もいわず、つっ立っていたばかりでしたが、セエラには、アンヌの気持がよく解るような気がしました。アンヌは、いつまでもそこに立って、セエラが印度紳士と一緒に店を出、馬車に乗って去って行くのを、じっと見送っていました。
底本:「小學生全集第五十二
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