この家《うち》の人は印度にいたことがあるに違いありません。
「屋根裏の窓から首を出す人はないかもしれないけど、この家《うち》の人とは、何だかもう親しいような気がするわ。」
 夕方牛乳を運び入れる時、セエラは大屋敷の御主人が、新しく越してきた家《うち》へ入って行くのを見かけました。そのうち出て来て、人夫達に指図をしたりするのでした。きっと大屋敷とこの家《うち》とは親しい間柄なのでしょう。
「子供があれば、大屋敷の子供達も、きっとこの家《うち》に遊びに来るわ。そして、面白がって屋根裏へ登って来ないとも限らないわ。」
 その晩、セエラのところに来たベッキィは、こんなことをいいました。
「お嬢さん、お隣に越して来たのは、印度の人ですってさ、色は黒いかどうか知らないけど。大変なお金持で、大屋敷の旦那様は、その方の弁護士なんですって。あまり心配事があったので、身体を悪くしてしまったのですって、あの人は、木や石を拝む邪宗徒なのよ。何か妙な偶像を運んで行くのを、私見てよ。」
「でもそれは、拝むわけじゃアないんでしょう。仏像にはいいものがあるから、拝むためじゃアなく、眺めるために持ってる人があるのよ。うちのお父様も、一ついいのを持ってらしったわ。」
 ある日、一台の馬車がその家《うち》の前に止りました。馭者《ぎょしゃ》が戸を開けると、大屋敷の父親や、看護婦が下りました。すると、玄関から下男《げなん》が二人駈け降りて来ました。馬車から助け下された印度の紳士は、骸骨《がいこつ》のように痩せ衰えた体を毛皮で包んでいました。大屋敷の主人はひどく心配そうでした。まもなく、お医者様の馬車が着きました。
 その日、セエラがフランス語の組に出た時、ロッティはそっといいました。
「セエラちゃん、お隣には黄色い顔の小父《おじ》さんがいるのね。支那人《しなじん》かしら? 地理の本には、支那人は黄色い顔をしている、と書いてあったけれど。」
「支那人じゃアないことよ。あの小父さんは、大変おからだが悪いのよ。――さア、練習問題をおやんなさい。『ノン・ムシウ。ジュネ・パ・ル・カニフ・ド・モンノンクル。』(いいえ、私は伯父さんのナイフを持っていません。)」
 そうして、それから印度紳士の話が始まりました。

      十一 ラム・ダス

 時とすると、広場で見る夕焼《ゆうやけ》もなかなか美しいものです。が、街から
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