ろに、にぎやかにひびくのでした。またそとには、若い娘たちが美しい頭巾に厚い上着をつけ、キャッキャッとはしゃぎながら、雪みちをあちこちの集まりに行きつ戻りつしています。その中《うち》に、ただ、ネルロの小屋だけが、暗くつめたいのでした。
 ネルロとパトラッシュは、全くのふたりっきりになってしまいました。クリスマスの一週間前とうとうジェハンじいさんは息をひきとってしまったのです。おじいさんは、ねている間に死にました。明け方のうす明りに、はじめてそれを知ったふたりの嘆きは、どんなだったでしょう。おじいさんは、どんなに彼等を愛しぬいていたことでしょう。おじいさんは、長い長い間、病の床についたきりで身動きもならず、ふたりのために何をしてやることもできませんでしたが、しかもこの親切な言葉とやさしい笑顔とは、つかれてかえって来るふたりにとって、どんなに大きな慰めだったことか―― そのなきがらを松板の棺におさめ、小さな教会堂のとなりの名もない墓に葬ったとき、ふたりは悲しみ極まわって、雪の上に泣きくずれたまま、立ち去ろうともしませんでした。ああ、犬と少年――彼等は全く、この世に頼るものなく取残されたのでした。
 今度こそはあわれにおもって心も解けるだろう、と信じたおかみさんの心だのみも空しく、粉挽屋の主人は、そのささやかな葬式が、門前をすぎるのを見ても、眉をよせたままくやみ一つつぶやこうとはしませんでした。気の弱いおかみさんは、とりつく術もなく涙をふきふき、そっと凋《しぼ》まない花を花環に編んで、アロアにそれを墓場へ持って行かせ、今は少年も立ち去って、人影もないその墓の上にうやうやしくおかせたのでした。
 ネルロとパトラッシュは、はりさけるような悲しい胸を抱いて墓場を立ち去ったが、そのかえり行く小屋さえも、なおふたりに[#「ふたりに」は底本では「ふたりにめ」]慰めを与えることをしませんでした。それは、この小さな家の地代が一月おくれになってしまっていたところへ、このかなしい葬式のために、ネルロは、最後の一銭まで、払ってしまったのです。小屋の持主というのは靴やのおやじで、世の中に金ほど可愛いものはないと思っている人情知らずでした。彼は、ネルロの詫言《わびごと》に耳をも貸さず、家賃や地代が払えないなら、その代り小屋にあるものは、鍋から釜から、木片《きぎれ》一つ、石塊《いしくれ》一つに至るまで
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