はしない。唯一つ云って置こう。弱い心と卑怯とは同じものを意味するのである。
悪心の中に包まれ育つ善心
闇は限りなく濃くなって、気体でなく、固体――油じみた古い布団のように私を圧した。眠ろうとしても心の静かにならない哀れさ。髪の毛の生え目は一つ一つに痛み、眼や鼻は硫黄の煙りで害されたように渋く充血した。
道を曲げてはいけない! 一つの目的を明確に意識せねばならない! 復讐の相手の顔から眼を外らしてはいけない!
正直な心、曲らぬ心、何故それをはっきりと保ち得ないのか?
けれど軈て私は熱っぽい眠りに堕ちて行った。夢は再び私を悲しく覚醒させた。何でも太って赭い顔の男が私に斯う話したのである、
「兄弟を殺しても、御免なさいと云やあ、それで済んだ時代があったさ。時代、時代がね。」
それから想起し得ない混乱の後に、私の亡父が表れ、不快な舌を以て呟いた。
「帽子を盗んでも、首を切っても、同じ位の罪しか感ぜぬ人間もあった。それから、それで好い時代もあった。時代も。」
私は恐怖する。之等の夢の示現は何を意味しているのか? 私は心の奥底から後悔していない為めに、斯んな荒れた考えを夢みる
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