た。斯んな老人と云うものは、決して若い者へ自分の弱身を表わさないのが普通であるのに、何うして彼は斯んなに老人的高慢心をなくして了ったのであろう。
「ね、お前、私は妙な癖に落ちている。一つの悔恨を想起すると、直ぐそれに関連して他の悔恨が、又それに引っかかって、更に古い悔恨が出て来る。斯うして三分の間に一生の悔恨が塊りになって私の心を押したおし、何が何だか分らない総括的なつまり象徴的な悲痛であたりが真っ暗になって了うのだ。」
私は以上の言葉に正直な注意を向けた。そして院長が少しも偽りを云っているのではないと云う直覚で院長へ同情した。然し不思議ではないか。何故院長は不信用な私へ向って斯んな懺悔を敢てするのか?
私は一つの推定法を知っている。若し女が自分の悲しみや苦しみを一人の男へ訴える場合がありとすれば、その悲苦が何んな種類のものであろうと、結局彼の女自身の恋愛を打ち明けているのだ。
若しも院長が女性であったなら、彼は明かに私へ恋を打ち明けている事になる。彼は静かに足を忍ばせて私一人の居る室へ来た。そして、誰も聞かぬ所で、私に彼自身の悲しみを話しているではないか?
私には分らなかった
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