は丁度それを愛慕します。女を得るには釣り道具も何も要らないんですからなあ。」
「成程……」と院長は気味悪相に顎を机に押しつけて了った。
「私の考えに依るとですね。強大な悪はそれ自身で病的なものです。しかし、或る程度の悪になりますと、それは生存上必須の要件なのですね。それで自然は斯う云う健康な正規的な悪を成可く絶滅させないために、随分と骨折っていると云う事が分ります。優秀な理性が一番遺伝しにくいものだと云う事実を先生は何う思いますか。」
私達は斯んな風に話したものである。私は先生の好い伴侶であり、思想上の相談役であった。院長は私に感化されないようにと思って、随分努力もし、体や頭を洗ったりしていた。けれども私の説明をその儘論文の中へ書き込むのは偽りのない所であった。
私はそれでも好い周囲を恵まれてから、段々と怨恨や不満を抑制するように努力し初めて居た。悪い心が起ると、静かに書見などをして気を散らす方法を覚えるに至った。私は自然、自分の幸福を感ずるようになり、古い悪事を想起する事で心を痛めるようにもなった。自分が精神上の片輪であると云う意識が眼覚めてからは、何うかしてその片輪を治そうとす
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