床の上で自然に死んで呉れたのであろうか? おお私は此の上もなく惨めな人間ではないか。実際は床の上で胃癌の為めに死んだB市長の事を、公園で刺客にやられたのだと吹聴したのは確かに此の私であった。その時は自分が嘘を吐いているなどと云う一種の悲しく又喜ばしい意識を失っては居なかった。おおあのイライラとした口惜しいような歯痒いような然も体をじっとしてはいられないような虚言の快楽、私は確かにそれを享楽していたのである。所が今度は何うであったろう。母とその情夫とに向けられた疑惑の根は決して虚構の快楽から生え上っては居なかった。困った、と私は自分の額を打っては何度かたじろいだことであろう。之は殺人事件を仮想しては楽しむ私の悪癖が一層憎悪して来た結果に他ならないと云う決断を私は何んなにか要求したか? 然も要求したにとどまった。悲しい事に疑念は子を産み、蔓を伸ばすのを止めなかった。
 その頃、私は又奇怪な話しに遭遇した。
「お前は知っているかね? スピノザは肺病で死んだことになっているが、実はアムステルダムの一医師に殺されたんだよ、デクインシーと云う人が其れを検べて、自分の著書へ公然と発表しているんだから
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