頭部の方へ隠すのである。改めて云うが、彼は正直に怒って了ったのである。「それ、いけない。」
 それにも拘らず、竹屋の前を通る時、死んで竿になって了っている竹が、亡霊の様に立っているのを見掛けたとて、彼は何とも思いはしないのである。「貴方、西瓜の果、食べる?」と掌へ乗せた黒い粒を私にすすめる丈である。
 私は考えた。何故彼は人間の私よりも病気の蛙を愛し、人間の奴隷よりも働く蟻に熱中するのか。又切り掛けの竹を憐れがるのに、切られて了った竹を恐れぬのか。
 最初の方の疑問は直きと解決される機会に到着した。彼が二寸方形位の写真のファインダーを、自分で造って持っている事から、私は気附いたのであるが、彼は自然大の自然物よりも、此のファインダーの擦り硝子へ映る小さい影像の方に、何れ程愛着しているか分らない。
「ああ、煙突からパーと煙出る。煙草よりももっと、小さい。それ可愛い。」
 此処に於いて私は判定する。小さくなくては彼の愛を買う事が出来ない。蛙は人間を縮小したものとして彼の眼に映ずるらしい。
 之は勿論全体を蔽う解決ではない。然し、重要な部分の様ではあるまいか。
 次が、竹の生死問題である。彼は
前へ 次へ
全146ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
松永 延造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング