に私自身を創造する、そして善と正義の名誉のために働く力が湧き上るであろう。斯くて今迄よりも一層多く哀れな人を劬《いたわ》り、又出来る丈は慰籍を与えたいと云う嬉しい希望で心が一杯になるであろう。私は私の心を見詰め、そして命ずる――
一般の者を高い程度に導けよ。そして悪者達を除外するな。否一層彼等の為めに力をつくせ。それが私達の肉と霊の課業である。
願わくば此の大きい社会をして、自由な朋友の美しい会館たらしめよ。それ自身に於いて会議場であらしめよ。何の宗旨にも頼らぬ神殿であり、寺院であらしめよ。さらにそれ自身に於いて有益な学校であらしめよ。
之で宜敷い! 凡ては語られたのである。だが其れは無秩序な舌、戸惑うた記憶力、紛乱せる思考力を以てである。ああ何が語られたと云うのか? 私は未だ何も語らない気がするではないか! 唯錯倒と紛乱とが叫ばれたに過ぎない――そして此の錯倒と紛乱の中心をなすものは「私が彼の女を殺した。斯くも陰惨な外囲の中で、殊に美しく愛らしかった私の妻を殺した……」と云う浅間しい観念である。私は何うしよう。之から何うして暮して行こう。凡ての騒がしい事件は過ぎた。時間が私の熱い血を冷しつつある。今にもっと本統の事が分って来る。そして本統に静かな悲しみが目醒めて来るのもその時であろう。
(昭和三年)
底本:「現代文学の発見 第一巻」学芸書林
1968(昭和43)年発行
入力:山根鋭二
校正:野口英司
1999年3月9日公開
2000年12月8日修正
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