ような告白を語り明したのである。傍聴席の妻女は到頭狂的に泣き出して、誰かの注意で外へ押し出された。
小学教員は沈んだ顔になって、私とは別の事を考え続けていた。
「ああ」と私は体をふるわし、自分のと他人のとを一緒に混ぜた涙をためて独語した。それから(後になって考えて見ると)[#「(」「)」は、「(」「)」が二つ重なったもの]私は夢中で駈け出したに相違ない。朝鮮人の妻に追いついた私は、彼の女の恐れるのをも構わず、彼の女の肩を撫で、髪についていた藁屑をつまみ取ってやった。
「何すんの?」女性は私を怪しみ訝った。
「無理はない。貴方も私も疑い深くなっている。お互いに殻を背負っている。私が恐く見えても、ああ、それは構わない。我々はセンチメンタルな事はきらいなのだ。だのに私は此の通りなんだ。」そう云うと私は真赤な眼から大粒の涙をふり落し、軈《やが》て、男らしくない挙動を耻じるように、女性の前から姿を消し、溝の中へ持ち合した四十銭を捨てて了った。
朝鮮人、支那人、それから彼等に似た日本人、可哀想な彼等の中に、此の私も一員として加っている。それが事実でないと誰が云おう。私は自ら痛みつつ又彼等を痛み愍れんだ。あの一人の朝鮮人に、私の生命の半分がつながっている。私を見ようと思えば、彼を見るが好い。若し私が彼であったら、私は彼のなした通りをせねばならなかったであろう。いや、聖者と呼ばるる特別の人を除いたあらゆる普通の人なら、彼の如き境遇の中で、その徳と智慧とを完全に保つ事は六ケ敷いであろう。
彼は悪い男である。それに何の間違いがあろう。けれど私は余りに好く知っている。他の事を、他の事を、斯んな種類の悪は自身で自然に湧き起る力のないことを! 之は善を隔たる一歩のものであることを!
復讐の代償
未だ何かが続いている。
私の所へ不愉快な手紙が達いている。それは例の哀れな姉妹からであった。彼等は初めの中こそアバズレであったが、今ではまるで継子のように言葉も少くなって了っていたのである。男を知ってから縮み上って大人しくなる女は決して少くない。私のある知り合いは電車の中である女と近づきになった。二人は図々しく郊外の畑道を歩いた。男は好い気になって女と関係し、それから小使いを呉れとせがんだ。女は一円呉れて、あとはお前と一緒に連れ添うてからやると云った。男は承知しないでもっと出せとせ
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