。唯、あの子のむくんだ醜い姿、それから、その子と遊ぶ腫物で毛の抜けた盲ら犬の姿、そんなものが、毒のように私の体に泌み込んで離れないんですわ。私は伝染して了ったのです。其れ等のものへ同情しているんでなくて、もう一緒に捲き込まれて了っているんですわ。それにねえ、懺悔しにくい事ですけれど、あの畸形児の父に当る人が、……」此処で女性は又言葉を切り、体をよろめかして、私の肩に頬を当てた。
私はその話の先を続けるようにとは促さなかった――何故なら、彼の女は恐らくもう処女ではないと云う直覚が悲しくも私の脳裡を掠めたからである。私は心を変えて斯う劬った。
「私は貴方をもう一度小鳥の間に住まわせて上げたく思います。貴方さえよかったら、お父さんと相談して上げてもかまいません。」
「……畸形の子の父親は……小刀を持ってます。そして、あの若い商人の方……は私の落ち度を堅く握っていらっしゃるんですわ。」女性は私の言葉とは掛け離れたある恐ろしい妄想に耽けっているらしく、眼を上釣らせて、黒い上空の一点を見つめた。
他人の楽しみ
幾月かが風や雨と一緒に過ぎた。そして風や雨は、私(セルロイド職工)[#「(」「)」は、「(」「)」が二つ重なったもの]の心の中にある悪辣な部分丈を洗い去り、従って善良な部分を明瞭に表面へ洗い出して呉れたように思えるのであった。
私は刃を以てする複讐を思い切る為めに、何度か、あの免職教員の親切な助言を煩わした。そして、兎も角も、口頭で怨みを返し、反省を促すために、院長の子息に面会する機会を探した。
子息は彼自身が私の妹を愛していた事、愛していた許りでなく、もっと深い関係に迄も入って行った事、それは重に彼の女の正直と低能へ向けられた同情に起因する事、院長の方は決して妹を自由にした證拠及び噂さのない事等を、悩ましげに頭をおさえて物語り、それから、もう一つ思い掛けぬ驚きを次のような言葉で私に与えた。
「父は貴方に骨の壺を見せたと云いますが、それは真実ですか? そうです。父は貴方へ向って何か秘密なそして重要な事を打ち明けたかったんです。けれど、その目的を思い切って決行する勇気がなかったらしいんです。死に際に、その秘密のホンの端緒丈を私に洩らしかけたが、直き息が苦しく詰まってね、話が途切れて了ったものだから、私にも好く判断がつかないんですけれど、何でも、貴方は私共
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