房衆まで三条西家に出入した記事が日記に見え、享禄二年には神余与三郎[#「与三郎」は底本では「与三部」]という者、三条西の召仕として抱え入れられている。多分隼人の近い身寄の者であろう。
越後においては上杉の雑掌神余がかくのごとく実隆に親交ある以上、その主人たる上杉が、実隆に音信を通ずるにおいて、何の不思議もなく、永正六年に実隆よりして兵庫頭定実に遣わした書状の返事が、翌年七月に神余の手を経て実隆にいたされ、それと同時に太刀一腰と鳥目《ちょうもく》千疋とを送ってきた。その後も交通の継続しておったことは、日記からして想像される。駿河の今川家と実隆との間柄は、宗長を通じてのみならず、他の方面からしても聯絡を有していた。すなわち実隆の宗家や親戚を通じての関係である。今川氏は了俊以来文事を重んじた家柄であるのみならず、今川五郎氏親は中御門家と姻戚の好を結び、実隆の宗家なる三条大納言実望はしばらく駿州におもむいて、今川の客となり、遂にかの地に薨じた。この実望からも実隆に贈物の到来したことがある。今川の賓客として駿河におもむいた者には、三条実望のほかに冷泉為和等もあり、これも実隆と親しい。されば今川家と実隆とは、その音信に必ずしも宗長を介したわけではなく、永正六年氏親が黄金三両を実隆に送った時などは、相阿がその取扱いをした。
駿河の今川家は、その京都との関係からしていうと、周防の大内家に似た点がある。されば実隆のごとき、当時の京都文明の一半を代表した人が、この両家に特別の交際をなしたことも怪むに足らぬ。しかして実隆とこれら両家との間には、好便による書状の往復や、遍歴する連歌師などがあって、これを聯絡しつつあったのである。ほかに、聯絡の一鎖をなした者の中には音一という座頭などもあった。音一はもと尾張生れの者で、六歳にして明を失い、十二歳のとき京都へ出で、『平家』を語ることを稽古してその技に熟達した。同人が実隆に紹介されたのは、永正三年その二十四歳の時で、紹介人は実隆と別懇なる渡唐の禅僧了庵であった。初対面の時には実隆に数齣の『平家』を語らせ一泊させて帰した。この音一これが翌永正四年五月、西国での文芸の保護者なる大内家をたよって周防に下向したが、その出発の際には、実隆より餞別として帯三筋、三位局と、新大納言典侍から帯各一筋、上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]局から白帷一を送ったので、音一は祝着の体で出発したのである。その音一の周防から上洛したのは翌年の十月であるが、その後|検校《けんぎょう》となり相変らず実隆邸で『平家』を語り、七年九月に駿河国に下向した時には実隆の手紙をも頼まれたのである。おそらくは久しからずして音一は駿河から帰洛したものであろう。永正九年閏四月には、能登へ遍歴のため出発したのであるが、その発足以前に、実隆はかねて音一から所望されてあった『伊勢物語絵詞』を書写してやった。伊勢の北畠と実隆との音信も、またこの音一の取次であったろうと思われるのは、永正七年五月、音一が伊勢に下向せんとした時、実隆がこれに木造ならびに龍興寺宛の書状を託したのに、同年七月北畠家からして任官の礼だといって、五百疋を贈ってきているからである。
以上述べきたったほかに若州武田の被官粟屋左衛門尉親栄は、勧修寺家の縁故からして実隆のもとに頻繁に出入した。殊に文亀三年四月には、一日から十七日まで、毎日三条西家を訪うている。また永正元年には実隆のために金策をしたこともある。この粟屋が若州に在る伏見殿御料松永庄の代官職を命ぜられたのは、あるいは実隆の推挙によるかも知れない。同じ武田の被官に久村某というのがあって、土産物持参で実隆を訪うたことは、日記に見えるが、これは多分粟屋の紹介によったものであろう。
実隆の交遊広く、雷名の僻陬《へきすう》まで及んでおったことは、日本のはてから彼を尋ねて来る者の多かったのでも推すことができる。薩摩からは、前にもちょっと述べた僧珠全が、一度は宗祇により、一度は宗碩と同道して、実隆に面謁したのみでなく、同国人吉田若狭守位清という者からは、和歌の合点《ごうてん》を依頼してきた。同じく島津西見は、十首和歌の儀興行のため、実隆を訪うたこともある。薩摩の者で、三条西家の近隣に小庵を結び、説経をした会下僧の、彼を訪れるもあった。薩摩も同様な大隅からは、禰寝《ねじめ》大和守という者が、礼と称して青※[#「虫+夫」、第4水準2−87−36]一緡と太刀代とを携えて、実隆に謁したこともある。薩摩・大隅すらすでにかくのごとくであるとすれば、肥前の住人志自岐兵部少輔縁定のごときは、まだしも近国からの来客というべき分である。
奥州のはてからも実隆に発句《ほっく》を所望して来る者があった。日記にはある巡礼男の同地方から訪ね来たっ
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