當を得たりと云はざるべからず。蓋し支那に於て試驗によりて常識と修養とを判ぜむとせば、之を除きて査覈の良法あらざるべければなり。特に歴史の科目設けられざりしと雖、策問によりて時務を論ぜしむること、以て其缺點を補ふものなり。之を高等文官試驗を以て法律學校の卒業試驗と殆ど同一視し、只管に膠柱の知識を驗するを主として常識と修養との判定に重きを置かず、從ひて登第の官吏事を處理するに當りても、必ず先づ法律の規定によらむとし、自ら責任を負ふことを回避し、法律を以て毎に最後の責任者たらしめむとし、輙もすれば無用の規定を設け、以て好んで獨斷專行の餘地を減ぜむとするに比すれば、其優劣遽かに判じ易からざるものあり。
 論じ來れば科擧の必しも一概に排斥すべき惡制にあらずして、却りて大に稱揚するに足るべきものあるを知るべし。凡民族に盛衰汚隆あると同じく、其民族の作り成せる文明にも自ら命數あり。數十年にして其極盛の域に達し、それよりして萎靡の境に入り去るものあり、數世紀にして尚未だ[#「未だ」は底本では「末だ」]發達向上の初程に在るものあり、其命數の長短は各同じからずと雖、要するに如何なる種類の文明に於ても、其發
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