は主として記憶なる者は時を經過すること長きに從ひて次第に精確なる再現を得べき能力を失ふべしとの原理に基づくものにして、苟も日記にして其日記たるの性質を失ひて追記の性質を帶ぶるに至らば、其史料としての價値が減殺せらるゝ所あるべきは至當の事なり、彼武家時代に於ける公卿縉紳の徒に王朝の盛時を顧み醉生夢死し、當時の天下の大勢に至りては※[#「りっしんべん+夢」の「夕」に代えて「目」、第4水準2−12−81]然として知るなきの輩多きも、而かも其日記が相應に史的價値を有するに至れる其所以亦偏に爰にありて存するなり。
 吾妻鏡は果して純粹の日記なるや否や星野博士の吾妻鏡考にも
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文體ヲ審ニスルニ前後詳略アリ前半ハ追記ニシテ後半ハ逐次續録セシニ似タリ
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とありて徹頭徹尾純粹の日記にあらざることは博士既にこれを云はれたり。されど博士の所謂前半後半の經界は博士の吾妻鏡考中に見えざれば今高見を知悉するに由なし文治以前は措て論せず今其以後につきて追記と思惟せらるゝ二三の事實を列擧して以て蛇足を添へむと欲す。
 建暦三年四月十六日の條に
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朝盛
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