かく政治が文明史に多大の貢献をなすは、單に鎌倉に限つた事ではない、古今東西例證に乏しからぬことである。
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扨以上論じ來つた所によりて推すときは、文明を構成する諸の要素の中で、鎌倉時代を最もよく代表し得るものは、此時代に興隆した新宗教であつて、文學美術等は之に亞ぐものであることは明である、であるから今「鎌倉時代の布教と當時の交通」と題して一場の講演を試みるのは、實は宗教の流布を説くのみならずして、旁ら之によつて當時の文明一般の傳播せる徑路を辿らむと欲するのである、但し未研究の足らぬ所からして、今は文學や美術に説き及ぼすことの出來ぬのは、予の甚遺憾とする所である。
尚本論に入るに先ちて、いま一つ斷はつて置かなければならぬのは、此講演の論證の基礎とした根本材料の甚脆弱なものであることである、といふのは、予をして此講演をなすに至らしむるについて、最多く暗示を與へたのは、各寺院に存する縁起であるが、凡そ史料中で何が怪しいと云つても恐らくは此諸寺の縁起ほど信用し難いものはあるまい、いづれの寺院も皆我寺貴しの主義に基きて、盛に縁起を飾り立てるのが普通で、中には飾り損ひて、
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