フあたりにはくっきりと青空が見えながら、村全体が翳《かげ》って、ひとしきり吹雪《ふぶ》く。と思うと、すぐ又、ぱあと日があたってくる。ここでは、そんなような空合いの日がかなり多い。
田部さんがリュックを背負って帰って行かれた七日の夕方も、そんな雪催《ゆきもよ》いだった。途中の落葉松林《からまつばやし》のはずれまでお見送りして、其処から一人で帰ってきながら、私はこの村にこうして一人で気儘《きまま》にいられるのを幸福に思わなければならないのかな、と考えたが、それにはいささか、半信半疑だった。
それから二三日立ってから、去年の夏この村で知合いになった英夫君が、正月になったら送ってくれと云って頼んで置いた空気銃を東京からわざわざ持って来てくれた。
翌日、一日じゅう二人で空気銃をもって森の中を駈歩いた。森の中はまだ雪が相当深い。これは狐の、これは兎の、それからこれは雉子か山鳥かどっちかだ、と雪の上に印せられている色んな足跡を、この間教えられたばかりのをおぼつかなく思い出しながら、そんなことを言い合っている間にいきなり私達の行手から飛び立つ鳥どもの羽音に、空気銃を手にしていることなんぞちょっと
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