vいながら、その轍を辿《たど》っていったら、やがて山にかかると、それが消え失せ、その代りに男女の足跡らしいのが入り乱れてついているので、更にそれを追って行くと、釘《くぎ》づけになった数軒の別荘の間から、私の前に突然、緑と赤とに塗られた雛型《ひながた》のように美しい三階建のシャレエが見え出した。南おもては一面の硝子《ガラス》張りだが、それがおりからの日光を一ぱいに浴びながら内部の暖気のためにぼうっと曇り、その中から青々とした棕櫚《しゅろ》の鉢植をさえ覗かせている。――近づいて標札を見ると、「Haus Sonnenschein」とある。ふん、こいつだなと思って、私はその家の前を何度も振り返りながら、素通りして、裏の山へ抜けようとしかけたが、頭上の大きな樅《もみ》の木からときおりどっと音を立てて雪が崩れ落ちてくるのに目が開けられないほどなので、又、引っ返してきた。その時ふいに、クリスマスに来たいと言ってきた阿比留信にこんなところに泊まらせてやったら愉快がるだろうと気まぐれに思い立って、そのままずかずかと裏木戸から這入《はい》って、台所を覗いて見ると、ストオヴの側で白いエプロンをかけた日本人の
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