、に眺めやった。
 ハウス・ゾンネンシャインと云う、いかめしい名の、独逸《ドイツ》人の経営しているパンションが、近頃|釜《かま》の沢《さわ》の方に出来て、そこは冬でも開いていると云うことを、夏のうちから耳にしていたが、私がそれを見たのはついこの間のこと、――クリスマスを前に、二三日続いて、ひどい大雪があった。そう、このへんでも五〇糎《センチ》位は積った。そんな大雪がからりと晴れあがるや否や、鬱陶しく閉じこめられていた追分《おいわけ》の宿から、私はたまらなくなって飛び出して、膝《ひざ》まで入ってしまうような雪の中を、停車場まで歩いて、それから汽車に乗って、軽井沢に来たが、ここでも軽便を待つのがもどかしく、勝手知った道なので、近道をしようとして野原を突切ったのはいいが、茅《かや》なんかの埋まっているところは体が半分位雪の中に入りそうになったり、いきなり道傍《みちばた》から雉子《きじ》が飛び立ったりして、何度も立往生せざるを得なかった。やっと別荘のちらほらとある釜の沢の方に出たら、道もよくなり、いましがた通ったらしい自動車の轍《わだち》さえ生ま生ましくついている。どこかの別荘に来た奴のだなと
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