に興味をお持ちになったように、じっとお前を見つめ出した。お前は思わず真っ赤な顔をして、あの方の部屋を飛び出してしまった。……
そんな短い物語を聞きながら、私はお前は何てまあ子供らしいんだろうと思った。そしてそれがいかにも自然に見えたので、この頃どうかするとお前は妙に大人びて見えたりしたのは全く私の思い違いだったのかしらと思われる位であった。そうして私はお前自身にもよく分らないらしかった、あの時の羞《は》ずかしさとも怒りともつかないものの原因をそれ以上知ろうとはしなかった。
それから数日後、東京から電報が来て、征雄が腸カタルを起して寝こんでいるから、誰か一人帰ってくれというので、とりあえずお前だけが帰京した。お前の出発したあとへ、森さんからお手紙がきた。
[#ここから1字下げ]
先日はいろいろ有難うございました。
O村は私もたいへん好きになりました。私もああいうところに隠遁《いんとん》できたらと柄にないことまで考えています。然しこの頃の気もちは却って再び二十四五になったような、何やら訳の分らぬ興奮を感じている位です。
殊にあの村はずれで御一緒に美しい虹を仰いだときは、本当に
前へ
次へ
全66ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング