なすって」と少女が云うと、姉はいましがた見た夢を話した。なんでもその猫が寝ている姉の傍らに来て、こんな事を言ったのだそうだった。
「実はわたくしは侍従大納言殿の姫君の生れ変りなのでございます。前世からの因縁がありますのか、この中《なか》の君《きみ》がわたくしの事を大そう哀れがって思い出しなさいますので、只暫くの間、此処に参っておりましたのに、今のように婢たちの中にばかり押し据えられておりましては、なんともつらくてなりませぬ」――一人の品のよい、美しいお方が自分の傍で泣き泣きそんな事を云われているように思って、驚いて目を醒ますと、それはさっきから泣きつづけている猫の声だったと云う事だった。
 そんな夢の事があってから、猫はもう北面へも出されずに、今までよりか一層姉妹に大事にかしずかれていた。一人ぎりでいるときなど、よく少女はその猫を撫でながら、「おまえは大納言様のお姫君ですのね。そのうちお父う様からでも大納言様にお知らせ申すようにいたしましょうね」と云いかけたりした。すると猫も、気のせいか、それを聞き分けでもするかのように、長泣きなどしながら、いつまでも少女の顔を見かえしていた。
 夜な
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