寝床に移されかけているところなのであった。……
 そんな或る晩、おばあさんの傍でいつのまにか愚図りながら寝込んでしまっていた私は、夜なかのいつもの時分になって、ふいと目を覚ました。いつもとは大へん異《ちが》って騒々しいような気がしたが、丁度みんなが帰りかけているところらしく、唯《ただ》、おかしい事には、見かけない姿の人が混ざっていたり、私の父や母までがその人達と一しょに出ていってしまったようだった。……それに、いつになく、そのあとにはおばあさんや細工場の者たちがうろうろ出たり入ったりして、私が目を覚ましたことなんぞには一向気がつかないらしかった。私はやっと一人で起き上がると、しぶしぶと目をこすりながら、奥の間にはいっていった。いつもならもうちゃんと蒲団がとってある筈《はず》だのに、そこには誰もいないばかりでなく、明るい洋燈の光を空《むな》しく浴びながら、何もかもが散らかり放題になっていた。私は寝呆《ねぼ》けたように、その真ん中に坐ると、急に怒ったように、そこいらに散らばっていた花札を一つずつ襖《ふすま》の方へ投げつけ出した。……
 おばあさんはそんな私にやっと気がつくと、別に小言もいわ
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