そのまま別にして置いて、私は自分自身は古いので我慢して、それをいつもお竜ちゃんのする通りに花莚の隅《すみ》に並べたりしていた。……
或る日、私がそうやって一人で無花果の木かげで余念なく遊んでいると、私の母が何処《どこ》からか、一人の見かけない女の子を連れて来た。
「この子と遊んでやって頂戴《ちょうだい》ね。」そう母はその子にいって、私の傍に彼女を置いていった。その女の子は、痩せた、顔色のわるい、しかしその黒味がちな目にしっとりと美しい艶《つや》をもった子だった。そうして粗末な、つぎはぎだらけな着物をきていた。私はまだその女の子とは言葉も交《か》わさないうちから、その子に対してはもう半分馬鹿にしたような態度をとり出した。その女の子は、そんな私をすこし持て余すようにしていたが、おとなしい性質と見え、何をしても私のするがままになっていた。しかし、同じままごと遊びをするにしても、お竜ちゃんだったら何をしても私の気に入るように出来たのに、その女の子と来たら、一所懸命に私のために何をやっても、私の気に入るようには出来なかった。
私はお竜ちゃんのために大事にとってある上等な道具はその子と遊ぶとき
前へ
次へ
全82ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング