れからまた話しつづけた。

        四

「その冬はどうやらそれで越せたようですが、今年《ことし》は爺さんどうするだろうと私どもも心配していました。夏場、またその家を人に借すにしても去年のような事でもあると、借りたお方にも気の毒だし、仲に立つ私どももたいへん迷惑しますので、ともかくも日向さんの奥さんに手紙でその事を言ってやりました。すると奥さんも何かといろんな事が気がかりだったのでしょう、折返し今年の夏は自分達がそちらへ行くから誰にも貸さないで置いてくれという御返事がありました。
「夏になって、また豆の花の咲く頃になると、日向さんの奥さんはお嬢さんと女中とを連れて、五年ぶりでこちらへお見えになりました。その五年の間にあの鷹揚《おうよう》な奥さんもどれほど御辛苦をなすった事だろうと案じていましたが、お会いしてみると、肩のあたりに心もち窶《やつ》れをお見せになっている位なもので、殆《ほとん》ど以前とはお変りになっていません。お嬢さんの方はもう二十を越されて、ますますお母様似になられて、年にしては少しふとり過ぎる位にふとって、豊かな感じのお嬢さんになっていられました。その方たちがふた
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