朴の咲く頃
堀辰雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)山椒喰《さんしょうくい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)元来|日向《ひゅうが》さん
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)真向かいのわが家[#「わが家」に傍点]
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一
あたりはしいんとしていて、ときおり谷のもっと奥から山椒喰《さんしょうくい》のかすかな啼《な》き声が絶え絶えに聞えて来るばかりだった。そんな谷あいの山かげに、他の雑木に雑《まじ》って、何んの木だか、目立って大きな葉を簇《むら》がらせた一本の丈高《たけたか》い木が、その枝ごとに、白く赫《かがや》かしい花を一輪々々ぽっかりと咲かせていた。……
それは今年《ことし》の夏になろうとする頃で、私と妻は、この村にはじめて来た画家の深沢さんを案内しながら、近所の林のなかを歩き廻った挙句《あげく》、その林の奥深くにある大きな樅《もみ》の木かげの別荘(そこで私達はおととし結婚したばかりのとき半年ほど暮らしていたのだった……)の前を通って、そのもっと奥にある村の水源地まで上って行ったとき
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