私のように行儀悪くしないで、じっとさっきから神妙に頭を下げつづけているらしかった。
 弥撒《ミサ》が了《おわ》って、なんだか亢奮《こうふん》しているような顔のおおい外人達の間に雑《まざ》りながら、その教会から出てきた時は、私達もさすがに少しばかり変な気もちになっていた。私達は、教会のまわりにあちらこちらと一塊りになって立ち話をしだしている外人達からずんずん離れて、まだ教会の中に残っているらしいポオランドの少女たちの事を気づかいながら、しかししばらくは黙ったまんまで歩いていた。それは何か一しょに好いものを見てきたあとで、いつも気の合った友人達の上に拡がる、あの共通の快い沈黙であった。
 これから森のなかの私の家へ寄ってお茶でも飲もう、――そういう事に決めてからも、私達はとかく沈黙がちに林道の方へ歩いて行った。こうやって津村君、神保君、それから僕、野村少年と、みんな揃っているのに、当然そこにいていい筈の立原道造だけのいない事が、だんだん私にはどうにも不思議に思えてきてならなかった。そう云えば、なんだか私ははじめて彼が私達の間にいないのに気がつき出したかのようだった。……



底本:「堀辰雄集 新潮日本文学16」新潮社
   1969(昭和44)年11月12日発行
   1992(平成4)年5月20日16刷
入力:横尾、近藤
校正:松永正敏
2003年12月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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