通れるか通れない位の、狭《せま》い、小さな坂道を上って行こうとした途中《とちゅう》で、私はその坂の上の方から数人の少女たちが笑いさざめきながら駈《か》け下りるようにして来るのに出遇《であ》った。私はそれを認めると、そういう少女たちとの出会《であい》は私の始終|夢《ゆめ》みていたものであったにも拘《かかわ》らず、私はよっぽど途中から引っ返してしまおうかと思った。私は躊躇《ちゅうちょ》していた。そういう私を見ると、少女たちは一層笑い声を高くしながら私の方へずんずん駈け下りて来た。そんなところで引っ返したりすると余計自分が彼女たちに滑稽《こっけい》に見えはしまいかと私は考え出していた。そこで私は思い切って、がむしゃらにその坂を上って行った。するとこんどは少女たちの方で急に黙《だま》ってしまった。そうしてやっと笑うのを我慢《がまん》しているとでも言ったような意地悪そうな眼つきをして、道ばたの丁度彼女たちのせいぐらいある灌木の茂みの間に一人一人半身を入れながら、私の通り過ぎるのを待っていた。私は彼女たちの前を出来るだけ早く通ろうとして、そのため反《かえ》って長い時間かかって、心臓をどきどきさせな
前へ 次へ
全100ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング