木々の枝を丁度いい額縁にして湖水の一部が見えそれを四方から囲んでいる山々を私ははじめて見た。地図と見くらべながら、右手のが斑尾《まだらお》山、それからずっと左手のが妙高山、黒姫山、というのだけが分かった。それからいま此処からは見えないが、戸隠山、飯綱山などがまだ控えている筈だった。


    *

 そう疲れてもいないので、夕飯までに近所の外人部落でも一まわりして見る事にする。
 急な丘の腹にもって来て、殆ど隙間もない位、それらの別荘が建て混んでいるので、通り路が何処からどうついているのかも分からず、又、その道から一々の別荘へなんの仕切りもなしに段々路がついているので、そのややっこしいったら無い。うっかりするとすぐ外人の別荘の中へ迷い込んでしまうが、さいわい今はもう殆ど全部閉まっているので、平気でそのヴェランダの下や勝手の横などを通り抜けて往った。まだ二軒か三軒ぐらい、そんな別荘に外人の家族が居残っているらしく、空家かと思った中から人の暮らしの静かな物音がしたりする。
 こうやって人けの絶えた外人部落をなんという事なしにぶらついていると、夏の盛り時は見ていずとも、何か知ら夏に於ける彼
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