晩夏
堀辰雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)木目菓子《バウム・クウヘン》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)いわば|差し向いの淋しさ《ツワイザアムカイト》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「木+無」、第3水準1−86−12]
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けさ急に思い立って、軽井沢の山小屋を閉めて、野尻湖に来た。
実は――きのうひさしぶりで町へ下りて菓子でも買って帰ろうとしたら、何処の店ももう大概引き上げたあとで、漸《や》っと町はずれのアメリカン・ベエカリイだけがまだ店を開いていたので、飛び込んだら、欲しいようなものは殆ど何も無かった、木目菓子《バウム・クウヘン》の根っこのところだけ、それも半欠けになって残っていたが、いくら好きでも、これにはちょっと手を出し兼ねていた。そこへよく見かける一人の老外人がはいって来た。この店のお得意だと見え、「おやおや、お菓子、もうなんにも無いですね……」と割に流暢《りゅうちょう》な日本語で店の売子に言葉を掛
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