ての便りを絵葉書に書き出していた。
 私は窓から見るともなしに霧雨のふっている裏山を見やっていた。蓑《みの》をきた男に手綱をとられながら、一ぱい背中に湿った草を積んだ馬が、その道をとぼとぼと登って往った。その馬の傍には、かわいらしい仔馬が一匹ついていく。ときどき親馬に体をすりつけたり、足でじゃれついたりしていた。馬子も、親馬も、仔馬のする事にはとりあわずにさっさと登ってゆく。仔馬は、しまいには親馬の背中から草をすこしばかり※[#「手へん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》りとって、何という事もなしにそれを横に銜《くわ》えている。その中には、草の花のようなものまで雑《ま》じっているのが見える。……



底本:「昭和文学全集第6巻」小学館
   1988(昭和63)年6月1日初版第1刷
底本の親本:「堀辰雄全集第2巻」筑摩書房
   1977(昭和52)年8月30日初版第1刷発行
   1996(平成8)年8月20日初版第3刷発行
初出:「婦人公論」(「野尻」の表題で。)
   1940(昭和15)年9月号
初収単行本:「晩夏」甲鳥書林
   1941(昭和16)年9月20日
※初出情報は、「堀辰雄全集第2巻」筑摩書房、1977(昭和52)年8月30日、解題による。
※底本の親本の筑摩書房版は甲鳥書林版による。
※章の区切りに置かれている「花のようなマーク」は、「*」に置き換えました。
入力:kompass
校正:門田裕志
2004年1月24日作成
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