、再び見いだした。しかし私自身はと云えば、去年とはいくらか変って、ことにお前の家族たちの私に対する態度には、かなり神経質になっていた。
それにしてもこの一年足らずのうちに、お前はまあなんとすっかり変ってしまったのだ! 顔だちも、見ちがえるほどメランコリックになってしまっている。そしてもう去年のように親しげに私に口をきいてはくれないのだ。昔のお前をあんなにもあどけなく見せていた、赤いさくらんぼのついた麦藁帽子もかぶらずに、若い女のように、髪を葡萄《ぶどう》の房《ふさ》のような恰好《かっこう》に編んでいた。鼠色《ねずみいろ》の海水着をきて海岸に出てくることはあっても、去年のように私たちに仲間はずれにされながらも、私たちにうるさくつきまとうようなこともなく、小さな弟のほんの遊び相手をしている位のものだった。私はなんだかお前に裏切られたような気がしてならなかった。
日曜日ごとに、お前はお前の姉と連れ立って、村の小さな教会へ行くようになった。そう云えば、お前はどうもお前の姉に急に似て来だしたように見える。お前の姉は私と同い年だった。いつも髪の毛を洗ったあとのような、いやな臭《にお》いをさせていた。しかしいかにも気立てのやさしい、つつましそうな様子をしていた。そして一日中、英吉利語を勉強していた。
そういう姉の影響が、お前が年頃になるにつれて、突然、それまでの兄たちの影響と入れ代ったのであろうか? それにしてもお前が、何かにつけて、私を避けようとするように見えるのは何故なのだ? それが私には分らない。ひょっとしたら、あの姉がひそかに私のことを思ってでもいて、そしてそれをお前が知っていて、お前が自ら犠牲になろうとしているのではないのかしら? そんなことまで考えて、私はふと、お前の姉と二三度やりとりした手紙のことを、顔を赧らめながら、思い出す……
お前たちが教会にいると、よく村の若者どもが通りすがりに口ぎたなく罵《ののし》って行くといっては、お前たちが厭《いや》がっていた。
或る日曜日、お前たちが讃美歌《さんびか》の練習をしている間、私はお前の兄たちと、その教会の隅っこに隠れながら、バットをめいめい手にして、その村の悪者どもを待伏せていた。彼等は何も知らずに、何時《いつ》ものように、白い歯をむき出しながら、お前たちをからかいに来た。お前の兄たちがだしぬけに窓をあけて、恐ろしい権幕《けんまく》で、彼等を呶鳴《どな》りつけた。私もその真似《まね》をした。……不意打ちをくらった、彼等は、あわてふためきながら、一目散に逃げて行った。
私はまるで一人で彼等を追い返しでもしたかのように、得意だった。私はお前からの褒美《ほうび》を欲しがるように、お前の方を振り向いた。すると、一人の血色の悪い、痩《や》せこけた青年が、お前と並んで、肩と肩とをくっつけるようにして、立っているのを私は認めた。彼はもの怖《お》じたような目つきで、私たちの方を見ていた。私はなんだか胸さわぎがしだした。
私はその青年に紹介された。私はわざと冷淡を装うて、ちょっと頭を下げたきりだった。
彼はその村の呉服屋の息子《むすこ》だった。彼は病気のために中学校を途中で止《よ》して、こんな田舎《いなか》に引籠《ひきこも》って、講義録などをたよりに独学していた。そうして彼よりずっと年下の私に、私の学校の様子などを、何かと聞きたがった。
その青年がお前の兄たちよりも私に好意を寄せているらしいことは、私はすぐ見てとったが、私の方では、どうも彼があんまり好きになれなかった。もし彼が私の競争者として現われたのでなかったならば、私は彼には見向きもしなかっただろう。が、彼がお前の気に入っているらしいことに、誰よりも早く気がついたのも、この私であった。
その青年の出現が、薬品のように私を若返らせた。この頃すこし悲しそうにばかりしていた私は、再び元のような快活そうな少年になって、お前の兄たちと泳いだり、キャッチボオルをし出した。実はそうすることが、自分の苦痛を忘れさせるためであるのを、自分でもよく理解しながら。今年《ことし》九つになったお前の小さな弟も、この頃は私達の仲間入りをし出した。そして彼までが私達に見習って、お前をボイコットした。それが一本の大きな松の木の下に、お前を置いてきぼりにさせた。その青年といつも二人っきりに!
私は、その大きな松の木かげに、お前たちを、ポオルとヴィルジニイのように残したまんま、或る日、ひとり先きに、その村を立ち去った。
私は出発の二三日前は、一人で特別にはしゃぎ廻った。私が居なくなったあとは、お前たちの田舎暮らしはどんなに寂しいものになるかを、出来るだけお前たちに知らせたいと云う愚かな考えから。……そうしてそのために私はへとへとに疲れて、こっそりと泣きながら
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