い見知らない土地にばかりあるものと思っていた年頃だったから。
が、その旅行の計画は、そのうち急に焼跡にバラックを建てることになり、父はその監督をしなければならなくなったので、中止になった。私の子供らしい夢は根こそぎにされた。そればかりでなしに、それは前よりも一層私の田舎暮らしの惨《みじ》めさを掻《か》き立てるような結果にさえなった。
私の父は、大抵日の暮れる時分に焼跡から帰ってきた。もう薄暗くなり出しているのに、電燈もつけないで、読みさしの本を伏せたまま、私がぼんやり横になっているのを見ると、私の父は気づかわしそうな目つきで私を見下ろしながら、しかしその優しい感情を強《し》いて隠そうとするような、乾《かわ》いた声で私を叱《しか》るのだった。
十月になった。村はますます静かになって行った。そうしてその頃までまだ何処かしらに漂っているように見えた悲劇的な雰囲気がだんだん稀薄《きはく》になればなるほど、その村に於《お》ける私の悲しい存在はますますそのなかで目立って来そうに思えた。そして私自身にとっても、日が経《た》てば経つほど、あべこべに、私の周囲はますます見知らない場所のように思わ
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