云うような気もされた。
 そう云い終えたとき、菜穂子はそのせいか急に気持ちまでが何んとなく明るくなったように感ぜられ出した。

 それから、しばらくの間、二人はどちらからも何んとも云い出さずに、無言の儘窓の外の雪景色を見下ろしていた。
「おれはこんどの事は母さんに黙っているよ。」やがて圭介が云った。「お前もそのつもりでいてくれ。」
 そう云いながら、彼はふと此の頃めっきり老《ふ》けた母の顔を眼に浮べ、まあこれでこんどの事はあたりさわりのないように一先ず落《お》ち著《つ》きそうな事に思わずほっとしていたものの、一方此の儘では何か自分で自分が物足らないような気がした。一瞬、菜穂子が急に気の毒に思えた。「若しお前がそれほどおれの傍に帰って来たいなら、又話が別だ。」彼は余っ程妻に向かってそう云ってやろうかと躊躇《ちゅうちょ》していた。が、彼はふとこんな具合に此の儘そんな問題に立ち返って話し込んでしまっていたりすると、もう病人とは思えない位に見える菜穂子を再び山の療養所へ帰らせる事が不自然になりそうな事に気がついた。明日菜穂子が無条件で山へ帰ると云う二人の約束が、そんな質問を発して相手の心に探り
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