と共に行かうとしながら。そしてもしも私のお租父さんに追ひつき、どんどん道を進んで行かなければならないやうな場合には、私は目をつぶりながら、それらのものを再び見出さうと努力した。私は屋根の線、石の色合ひを正確に思ひ浮べようとして一所懸命になつた。そして何故だか分らなかつたが、私にはそれらのものが今にも充ち溢れさうでもう半分開きかかつてゐ、そしてそれらのものがその覆ひになつてゐるところの、その中身をば將に私に手渡ししようとしてゐるかのごとく思はれるのであつた。
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[#地から2字上げ]「スワン家の方」※[#ローマ数字1、1−13−21]

 かくのごとく子供の頃から、プルウストは自分の中に世界を非常に蠱惑的なるものとして受け入れると同時に、彼はそのものを理解すべく、そのものからそのもの以上の何物かを引き出すべく、「形象《イマアジュ》の覆ひの下に」隱されてゐる現實(物質的なものであるか觀念的なものであるか彼は知らぬが)を發見すべく彼を駈りやるところの――彼自身の言葉を借りれば――「困難な心の義務」を感じたのだ。
 レイナルド・アァンは「プルウスト追悼號」の中で、實際にお
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