ば多いだけ、ますます自由に私はその側を選択するのであるから。実に神の聖寵も、自然的な認識も、決して自由を減少せしめるのではなく、かえってむしろこれを増大し、強化するのである。しかるに、何らの根拠も私を他方の側によりも一方の側にいっそう多く駆り立てない場合に私が経験するところの、かの不決定は、最も低い程度の自由であり、そして意志における完全性ではなくて、ただ認識における欠陥、すなわち或る否定を証示するのである。なぜなら、もし私がつねに何が真であり善であるかを明晰に見たならば、私は決していかなる判断をすべきかあるいはいかなる選択をすべきかについて躊躇しなかったはずであり、そしてかようにして、たといまったく自由であったにしても、決して不決定ではあり得なかったであろうから。
 ところでこれらのことから私は次のことを知覚する。すなわち、私が神から授かっている意欲の力は、それ自身として観られた場合、私の誤謬の原因ではないということを。なぜなら、この力は極めて広くて、その類において完全であるから。また理解の力もそうではないということを。なぜなら、私はこの力を神から理解するために授かっているゆえに、私の理解するあらゆるものは、疑いもなく私はこれを正しく理解し、そしてこれにおいて私が過つということはあり得ないから。しからばどこから私の誤謬は生じるのであろうか。言うまでもなくただこの一つのことから、すなわち、意志は悟性よりもいっそう広い範囲に及ぶゆえに、私が意志を悟性と同じ範囲の内に限らないで、私の理解しないものにまでも広げるということからである。かかるものに対して意志は不決定であるゆえに、容易に意志は真と善とから逸脱し、かようにして私は過つと共にまた罪を犯すのである。
 例えば、私がこの数日、何らかのものが世界のうちに存在するかどうかを考査し、そして私がこのことを考査するということそのことから私は存在するということが明証的に帰結するのを認めたとき、実に私は私のかくも明晰に理解することは真であると判断せざるを得なかったのである。これは、或る外的な力によってそうするように強要せられたというのではなく、かえって悟性のうちにおける大きな光から意志のうちにおける大きな傾向性が従ってきたゆえであって、かようにして私がそのことに対して不決定であることが少なければ少ないだけ、ますます多く私は自発的にそして自由にそのことを信じたのである。しかるに今、私は私が或る思惟するものである限りにおいて存在することを知っているのみでなく、さらにまた物体的本性の或る観念が私に現われている、そこで、私のうちにあるところのあるいはむしろ私自身であるところの思惟する本性が、かかる物体的本性とは別のものであるか、それとも両者は同一のものであるか、という疑いが生じてくる。そして私は、この一方を他方よりも多く私に説得する何らの根拠も未だ私の悟性に現われていないと仮定する。まさにこのことから確かに私は、両者のいずれを肯定すべきか若しくは否定すべきか、それともまたこのことについて何も判断を下すべきでないか、に対して不決定であるのである。
 実にまたこの不決定は、単に悟性によってまったく何も認識せられないものに及ぶのみでなく、また一般に、意志がそれについて商量している時に当って悟性がそれを十分に分明に認識していないというすべてのものにも及ぶのである。なぜなら、たとい蓋然的な推測が私を一方の側へ引張るにしても、それが単に推測であって、確実なそして疑い得ぬ根拠ではないというただ一つの認識は、私の同意を反対の側へ動かすに十分であるから。このことを私はこの数日、以前に極めて真なるものと私の信じたすべてのものをば、この一つのこと、すなわちそれについて或る仕方で疑われ得ることがわかったといことによって、まったく偽なるものであると仮定したときに、十分に経験したのである。
 ところで何が真であるかを十分に明晰に判明に知覚していない場合、もし実際私が判断を下すことを差し控えるならば、私のかくすることが正しく、私は過つことがないのは明かである。しかるにもし私が肯定するもしくは否定するならば、そのとき私は意志の自由を正しく使用していない、そしてもし偽である側に私を向わせるならば、明かに私は過つ、またもし他の側を掴んで、偶然に、なるほど真理に当りはするにしても、だからといって私は罪を免れないであろう。なぜなら、悟性の知覚がつねに意志の決定に先行しなくてはならぬことは、自然的な光によって明瞭であるから。そしてこの自由意志の正しくない使用のうちに誤謬の形相を構成するところのかの欠存が内在するのである。すなわち、欠存は、作用そのもののうちに、これが私から出てくる限りにおいて、内在するのであって、私が神から受取った能力のうち
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