器官に現われるもしくは現われるように思われる場合、かかるものの観念のつねとするごとく、私が期待しないのに私にやってきたのでもない。またそれは私によって構像せられたのでもない。なぜなら、明かに、私は何物をもそれから引き去ることができず、何物をもそれにさらに加えることができないから。従って残るところは、あたかも私自身の観念がまた私に生具するのと同じように、この観念が私に生具するということである。
そしてたしかに、神が私を創造するにあたって、ちょうど技術家が彼の作品に印刻した自己のしるしであるかのように、この観念を私のうちに植えつけたということは、不思議ではない。またこのしるしが作品そのものとは別の或るものであることも必要ではない。しかしながら、神が私を創造したということ、ただこの一つのことから、私が何らかの仕方で神の姿と像《かたど》りに従って作られたということ、また神の観念がそのうちに含まれるこの像りが、私の私自身を知覚するに用いるのと同じ能力を持って私によって知覚せられるということは、極めて信じ得ることである。言い換えると、私が私自身のうちに精神の眼を向けるとき、単に私は、私が不完全で、他のものに依繋するものであり、そしてますますいっそう大きなものすなわちいっそう善いものをと無限定に喘ぎ求めるものであることを理解するのみでなく、同時にまた私は、私の拠って依繋するところのものが、かかるいっそう大きなものの一切を、単に無限定に、可能的にではなく、かえって実際に無限に自己のうちに有し、そしてかようにして神であることを理解するのである。そして論証の全体の力は次のところに存するのである、すなわち、私の現にあるごとき本性を有する私、まさに神の観念を自己のうちに有する私は、実際に神がまた存在するのでなければ、存在することがあり得ない、と私の認知するところに存するのである。ここに私が神と言うのは、その観念が私のうちにあるその神、言い換えると、私の把握し得ぬ、しかし何らかの仕方で思惟によって触れ得る、一切の完全性を有し、そしていかなる欠陥からもまったく免れているものである。このことから、神が欺瞞者であり得ないことは、十分に明かである。なぜなら、すべての瞞着と詐欺とが或る欠陥から出てくるということは、自然的な光によって明瞭であるから。
しかしながら、このことをいっそう注意深く考査し、同時にまたここから引き出され得る他のもろもろの真理の中へ尋ね入るに先立ち、私はここでしばらく神そのものの観想のうちに停まり、その属性を静かに考量し、そしてその無辺なる光明の美をば、これにいわば眩惑せられた私の智能の眼の耐え得る限り多く、凝視し、讃嘆し、崇敬しすることが適当であると思う。なぜなら、ただこの神的荘厳の観想にのみ他界の生活のこの上ない浄福の存することを我々は信仰によって信じているのであるが、そのようにまた今我々は、かかる観想によって、もとよりそれは遥かに少く完全なものであるとはいえ、この世の生活に置いて許された最大の満足を享受しうることを経験するからである。
[#改丁]
省察四
真と偽とについて。
私はこの数日、私の精神を感覚から引き離すことにかくも慣れてきたし、また私は、物体的なものについてほんとうに知覚せられるものがきわめてわずかであり、人間の精神についてはしかし遥かに多くのものが、神についてはさらに遥かに多くのものが認識せられることをかくも注意深く観察したので、今や私は何らの困難もなしに思惟をば想像せられるべきものから転じて、ただ悟性によってのみ捉えらるべきもの、そして一切の物質から分離せられたものに向わせうるであろう。まことに私は人間の精神について、それが思惟するものであり、長さ広さ及び深さにおける延長を有せず、そして物体に属するところの何物をも有せざるものである限りにおいて、いかなる物体的なものの観念よりも遥かに多くの判明な観念を有している。そして私が疑うということ、すなわち不完全で依存的なものであるということに注意するとき、独立な完全な実有の、言い換えると神の、かくも明晰で判明な観念が私に現われ、そしてかくのごとき観念が私のうちにあるということ、すなわち私、かかる観念を有する私が存在するということ、この一つのことから私は、神がまた存在するということ、そしてこの神に私の全存在があらゆる箇々の瞬間において依存するということをかくも明瞭に結論するのであって、かようにして私は人間の智能によって何物もこれ以上明証的に、何物もこれ以上確実に認識せられ得ないと確信することができる。そしていま私は、真の神の、すなわち知識と智慧とのすべての宝を秘蔵する神の、かかる観想から、余のものの認識にまで達せられるところの、或る道を認めるように思われる
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