一歩一歩地位を作つて行かうといふ一心で滿足してをりました。ところをかうやつて突き落されてしまつた。ですから、もう一度元の地位に這ひ戻らしてさへ貰へばよいといふ譯には、今ぢや參りません。出世させて貰はなくちやならん。ようございますか、今一度銀行へ入れて貰つて、元よりも高い地位に据ゑて貰はなくちやなりません。ご主人は私のために地位を工夫して下さらなくちやならん。
ノラ 主人が、そんなことをするものですか。
クログスタット いや、なさるでせう、私はご主人の人物を存じてをります――よもや拒みはなさるまいと思ひます。そして私が銀行に入れば、見ていらつしやい、直に支配人の右の腕にはなつてみせます。トル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルト・ヘルマーでなくニルス・クログスタットが株式銀行は切り廻してご覽に入れます。
ノラ おやまあ、そんなことができるものですか。
クログスタット では何でせうな、あなた――?
ノラ もう止して下さい。今こそ私勇氣が出ましたよ。
クログスタット 私を嚇かしちやいけませんよ。貴女のやうな華車な荒い風にも當らないものがどうして――
ノラ まあ、見ていらつしやい!
クログ
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