のうちにその金を拵へる手段《てだて》がおありですか?
ノラ それも直ぐといつて間に合ひさうなのはありませんけれど。
クログスタット また、それがおありなさるとしても、今となつちや役に立ちますまい。すつかり金を積んで返さうとおつしやつても證文は貴女の手には返しません。
ノラ それを取つておいて何になさらうといふのです?
クログスタット たゞ保存しておきたいのです。私の所有物としてね。世間の人には何も知らせやしません。さうして萬一あなたが無法な考へなんかお起しなさるやうなら――
ノラ 起したらどうします?
クログスタット 例へば夫や子供を捨てゝしまつて、といふやうなことを考へるとか――
ノラ もし捨てゝしまつたらどうなります?
クログスタット または――何かもつと亂暴なことをお考へなすつた場合に――
ノラ どうして貴方は、それを知つてゐます?
クログスタット そんなことは殘らず頭の中から打つちやつておしまひなさい。
ノラ どうして貴方は、私の心で思つてることをご存じですか?
クログスタット 誰でも始めは、さういふことを考へるものです。私もそれを考へました、けれども私には勇氣がなかつた。
ノ
前へ
次へ
全147ページ中89ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
イプセン ヘンリック の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング