れはね、私止めることが出來なかつたのですよ、クログスタットさん。ぎりぎりまで爭つてはみたけれど、役に立ちませんでした。
クログスタット そんなにご主人は貴女のことを何とも思つてお出でにならないのですか。私が貴女をどんな目に合はせるかも知れないといふことはご承知でせうが、それでもやつぱり――
ノラ 貴方はすつかり主人に私がいつたと思つていらつしやるの?
クログスタット いや、實は貴女が、それを話しておいでなさらないといふ事はよく承知してゐました。私の知つてるトル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルト・ヘルマー君なら、それを聞いてゐては、あれ程の勇氣は出ませんからな――
ノラ クログスタットさん、どうか主人についてあまり失敬なことはいはないやうにして下さい。
クログスタット 勿論ですとも、充分相當の敬意は拂つてをります。が、とにかく貴女がさう心配して事件を祕密にしようとなさるところを見ると、昨日よりは、大分あなたにことの性質がわかつて來たと見えますな。
ノラ 貴方に伺つた以上に、ずつとよくわかつてゐますよ。
クログスタット 左樣、私のやうな碌でもない法律家にお聞きなさるよりはね――
ノ
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