るだらう。さうなるときつとその結果は現はれてくる。のみならず、今一つ私が到底クログスタットと一緒に仕事の出來ない理由がある。
ノラ どんなこと?
ヘルマー 俺は已むを得なければ、あいつの暗い性格は我慢できるかも知れない――
ノラ えゝ、さう。
ヘルマー それから仕事にかけては立派だといふことも聞いてゐる。たゞかういふことがあるのだ。あいつはもと、私の大學の友達でね――よく後悔することだが、その頃の亂暴な向ふ見ずの交際をやつたものだ。ここで白状してもかまはないが、あいつと私とは實はそのため俺貴樣のつき合ひをするのだ。ところがあいつめ誰の前でも構はず、俺とさも親しげに振舞ふのを得意にしてやがる――おいトル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルトかうしろ、トル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルトあゝしろといふ。それが俺に取つては實際苦痛で堪らない。あのまゝで行くと俺の銀行の地位は持ち切れなくなるかも知れないよ。
ノラ あなた、眞面目なの?
ヘルマー 眞面目なのかつて? なぜだ?
ノラ そんなことは小つぽけな理由ぢやありませんか。
ヘルマー 何だつて? 小つぽけな? お前は俺を小つぽけ
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