行に置いてやつて下さい。
ヘルマー でもお前、私がリンデンの奧さんをつけようと思ふのは、あいつの地位なんだよ。
ノラ えゝ、それは有難いんですけれどね、クログスタットの代りに誰か他の者を免職にして下さいな。
ヘルマー どうしたんだ、わからないにもほどがあるな。お前がよく考へもしないで、あんな奴に約束をするものだから、そのために私が――
ノラ さうぢやないのですよ、あなた。あなたのためなのです。あの男は幾つかの惡徳新聞に關係してるでせう、惡人のすることですもの何をほじくり出すか知れやしません。私たちはこれから睦じい穩かな家庭で幸福に暮らせるのでせう? 貴方も私も子供もね、ですから私お願ひなのよ、どうかね。
ヘルマー さういふ風にお前があいつの頼みを聞かうとするから、却つて益々あいつを置いとくことが出來なくなるのだ。私がクログスタットを出すといふ話は銀行へ知れてるのだから、萬一、新支配人は妻君の小指で引き廻はされたといふやうな噂がたつと――
ノラ さうすると、どうなります?
ヘルマー 仕樣があるものか、我儘女が剛情をいひ張つてる間は駄目だ、俺は人の物笑ひになつて嬶天下で頭が上らないといはれ
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