走さま。
ノラ (立ち上り室を向ふへ歩く)いゝえ、昨日はね、不斷ほど面白くなかつたのですよ。もう少し早くいらつしやるとよかつた。トル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルトは實際、家の中を樂しくするのが上手なの。
リンデン あなただつてさうぢやありませんか。でなければお父さんのお子さんぢやありませんもの。それはさうと――ランク先生はいつもあんなに昨晩のやうに沈んでいらつしやいますか?
ノラ いゝえ、昨晩は特別でしたのよ。あの方はね、恐ろしい病氣を持つてゐます、背髓癆ださうです。
リンデン (縫物を續ける、ちよつと經つて)ランク先生は毎日此方へ見えるの?
ノラ えゝ、毎日。あの方はね、トル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルトの子供の時からのお友達で私も大變親しくしてゐるの、まるで家のもの同樣にしてゐるの。
リンデン ですがね、あなた――あの方は全く眞面目な方なの? 口先だけの出任せをいふ人ぢやありませんか?
ノラ そんなことはありませんわ、どうしてそんな風にお考へなすつて?
リンデン 昨日あなたがお引合せ下すつた時にあの方は、何度も私の名を聞いたといつたでせう? ところがお宅のご
前へ 次へ
全147ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
イプセン ヘンリック の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング