時階段でお先へ失禮したのが、たしかあなたでしたね。
リンデン はあ、私ゆつくり/\と歩くものですから。上り下りに骨が折れるので。
ランク あんまりお丈夫でない?
リンデン たゞ無理な仕事をしたせゐですけれど。
ランク あゝ、それで此方へ來て少し呑氣に保養をなさらうといふのですね。
リンデン いえ、此方へ參つたのは、職を求めたいと思ひまして。
ランク それぢやあ療養にはなりますまい、無理な仕事をなすつて疲れておいでなのに。
リンデン でも生きなくてはなりませんもの、先生。
ランク さやう、世間ではさういつてますね。
ノラ あら先生、あなただつて生きてゐたいとお思ひでせう?
ランク さうに違ひありません。私の生涯がどんなに慘めだらうが、やつぱり出來るだけは長く引つ張つてゐたい。私の所へ來る患者もみなさういふ熱病に罹つてゐます。道徳上の患者だつて同じことだ。今丁度ヘルマー君が話してゐる人物なども、その仲間の一人です。
リンデン (柔かに)まあ!
ノラ 誰のことですか?
ランク あのクログスタットといふ奴ですよ。奧さん、あなたは何もご存じないが――心のどん底まで腐つた奴です。所があんな奴までが
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