さい可愛らしいカプリの娘を脇の下に抱へて大急ぎで部屋を一巡りしましてね、一同に挨拶して、そして――よく小説に書く奴ですが――その美しき幻は消えにけり、でした――引つ込みといふものは、いつもぱつとしなくちやいけませんからね、奧さん。所がノラにはどうしてもその譯がわかりません。いやあ! ここは暑いな!(ドミノの上衣を椅子の上に投げかけて、自分の室への扉を開く)おや、こちらには灯火がついてゐないな? うむ、そのはずか! ご免下さいよ――(入つて蝋燭に灯をつける)
ノラ (息の聞えないやうにつぶやく)どうしました?
リンデン (柔かに)あの人に話しましたよ。
ノラ そして?
リンデン ですけれどね、ノラさん――あなたは、すつかりご主人に打開けてお仕舞ひなさらなくちやいけませんよ――
ノラ (殆んど聲に出さないで)そんなことだらうと思ひました!
リンデン クログスタットの方は少しも怖がる必要はありません。けれども、とにかくすつかりいつてお仕舞ひなさる方がいゝのですよ。
ノラ いゝえ、いひますまい。
リンデン だつて手紙がいつてしまひますよ。
ノラ クリスチナさん、どうも色々ご心配下すつたわね、そ
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