つ喰後は胃部には不快を覚えたるも、今や進んで喰するを好むも、然れども注意して少量にして尚空腹を覚ゆるを耐忍せり。且つ尊親夫婦は最も喰味《しょくみ》の調理に意を用いて、漸次《ぜんじ》に喰量を増し、粥をも少しずつを濃くせり。実に初めは極薄きを用い、追々其喰料を増加して漸次に復常《ふくじょう》し、書を読み、或は近傍を歩行するに至れり。然るに尊親夫婦は厚意を以て日々滋養品を交々《こもごも》に饗せらるるにより、漸次体力復したり。従うて精神上に於ても大に安堵ありて、日々尊徳翁の霊位を拝し、且つ遺訓と其遺れる二宮家庭を視、或は遺書を拝写して、一週間を経て体力復し、精神上の快活を得たり。為に欝を忘れ、喰気《しょくけ》は追々増加して、一層の快を覚えたるを以て、彼家《かのいえ》を去るに至れり。爾後は漸次に喰量を増し、食後の胃痛も無くして、心身復常せり。ああ此時に在りて誤りて空《むなし》く床上に在て只平臥する事あらば、或は心身共に衰弱するに至るべきなり。此れ泥水の内に在て空腹にて困苦するのみならず、過度の運動するが為めに喰機を振起し、為めに心身一大変動を起すに至り、尚尊徳翁の霊前に侍したるの感動により精神上
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