も全治すべからざるを悟りて、予に懇切に乞うて曰く、此度《このたび》は决する事あり、依て又一に面会して能く我等夫婦が牧塲に関する素願《そがん》たるの詳細を告げ示し置きたし、依て牧塲に行き又一と交代して又一をして早く帰宅せしめられたしと。乞う事切なり。且つ此れは妾《わらわ》が大に望む処なりと、数回《すかい》促されたり。予は今世《このよ》の別れとは知り、忍びざるも、然れども露国に対するの戦端開け、又一が召集せらるるも近きにあらんか、依て速《すみやか》に又一を札幌に出でしめ、責めては存命中に又一に面会せしめて、十分に話を致させるとして出発するも、心は残りて言うべからざるに迫まれり。尚死後の希望を予に向うて乞う事切なり。左《さ》に。
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一、葬式は决して此地にて執行すべからず。牧塲に於て、卿《けい》が死するの時に、一同に牧塲に於て埋《う》めるの際に、同時に執行すべし。
一、死体は焼きて能く骨を拾い、牧塲に送り貯えて、卿が死するの時に同穴に埋《うず》め、草木《そうもく》を養い、牛馬の腹を肥せ。
一、諸家《しょけ》より香料を送らるるあらば、海陸両軍費に寄附す
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