予は現今の喰料のみならず、貯うる事とも為し、或は諸方へ贈りものとして誇れり。此れ苦中の一楽なり。………当地にては、白米は都会の地に比すれば倍額たるを以て、未開地の新住居たる者は、殊に白米を喰するを減ずるを最も心懸《こころがく》るは最要方法たり。依ては年中絶えず第一には馬鈴薯《じゃがいも》を多く常喰する事にて、第二は諸種の豆類をも多く喰するを以て、馬鈴薯と豆類には足りて忌むべきを覚ゆるあり。其際に時々草餅を以て祝いの時や或は祭りの日など用ゆる時は、何《いず》れも大に喜んで喰するを以て、只都会の草餅の如く色と香とを以てするのみにては名のみなるも、喰料の助けとして多く蓬を用ゆる時は、味と共に喰料を助くる事最も多きなり。尚雪中に青物の乏しき時に此れを一同に喰せしむる時は、何れも大満足する者なり。実に僻地に於て隣家も遠くして平生他の人を見る事なく、亦語る事少く、他に心を慰むるもの無きにより、殊に傭人等《やといにんら》は日々馬鈴薯と豆類のみを多く喰するを楽《たのしみ》とするのみなるを以て、折には異る喰物《しょくもつ》を大に楽とするのみなり。実に未開地に於ける農家の喰料は、都会人士の知らざる処にして
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